診療案内
‐腫瘍外科‐
最近ではペットの高齢化に伴い、様々な腫瘍が動物にも発生するようになりました。腫瘍の種類や場所によっては治療が大変になる場合もあります。当病院では治療可能な腫瘍に対して積極的に外科手術を実施しており、必要があればCTやMRIなどを用いて、術前に綿密な手術計画を立てて行います。主に以下の腫瘍外科が実施可能です。
腫瘍外科:口腔内腫瘍切除、乳腺腫瘍切除、皮膚腫瘍切除、肺腫瘍切除、縦縦隔腫瘍切除(胸腺腫など)、肝臓腫瘍摘出手術、腎臓腫瘍摘出手、膵臓腫瘍摘出手術、膀胱腫瘍切除、尿道腫瘍切除、甲状腺腫瘍切除、断脚術、直腸腫瘍切除、副腎腫瘍切除、胃腫瘍切除など
以下に当院で手術することの多い、副腎腫瘍、泌尿器腫瘍、鼻腔内腫瘍、肺腫瘍、口腔内腫瘍、胃腫瘍の症例を記載致します。
また、ご紹介の多い肝臓腫瘍に関しましては「肝胆肝外科」のページに記載しておりますので、そちらをご覧下さい。
1. 副腎腫瘍
犬の副腎腫瘍は中高齢での発生が多いとされています。近年は画像診断機器の発達に伴い、診断される機会が増えてきました。副腎腫瘍の治療に関しては外科療法が推奨されますが、手術難易度が高く、また術後の合併症のリスクもあるため、慎重に検討する必要があります。副腎腫瘍は早期に発見すれば腹腔鏡で摘出することも可能ですが、進行することで血管内へ浸潤し手術が大変になる場合があります。当院では副腎腫瘍に関して多数の症例の治療を実施し良好な結果を得ています。
内科治療という選択肢もありますが、症状を抑えられない場合があります。
症例①:11歳 MIX犬 雄
近医にて検診で右副腎に腫瘍を認め、腫瘍の精査および治療目的と当院を紹介来院されました。CT検査で右副腎に約24mmの腫瘤性病変(赤矢印)を認め、一部は後大静脈内への浸潤(黄矢印)を認めました。
治療のため右副腎腫瘍摘出手術を実施しました。右副腎腫瘍と後大静脈に浸潤している腫瘍を摘出し、切開した後大静脈を縫合し手術終了とした。
術後経過は良好で、術後4日目に退院しました。病理組織検査は褐色細胞腫と診断され、マージンはクリアで完全切除でした。術後半年以上経過していますが、再発、転移などなく経過良好です。
症例②:9歳 ダルメシアン 避妊雌
多飲多尿を主訴に来院、エコー検査、CT検査で左副腎に約30mmの腫瘤性病変を認めました。
飼い主様とご相談し手術治療を実施しました。この症例では腹腔鏡での左副腎腫瘍摘出手術を実施しました。
手術は問題なく終了し、術後2日目には無事退院となりました。病理組織検査は副腎皮質腺癌と診断されましたが、マージンはクリアで完全切除でした。術後1年以上経過していますが、再発、転移などなく経過良好です。
2. 泌尿器腫瘍
犬や猫では、膀胱や尿道、前立腺に稀に腫瘍が発生し、特に移行上皮癌という悪性腫瘍がよく発生します。血尿や頻尿などの症状の他、尿管や尿道を巻き込むと急性腎不全に移行し命に関わることがあります。
これらの治療には外科的治療と内科的治療がありますが、特に外科手術は難易度が高い場合があり、状況により困難なこともあります。
当院は泌尿器に発生した腫瘍に対して積極的な外科手術を行っております。
症例①:10歳 Mダックスフント 雄
1ヶ月前から頻尿、血尿を認め、エコー検査にて膀胱に巨大な腫瘍が見つかり当院へ紹介来院されました。
腹部超音波検査にて膀胱内を占拠する巨大腫瘍が認めました。
細胞診、遺伝子検査にて、悪性の移行上皮癌が疑われました。飼い主様の希望により、膀胱腫瘍切除手術(膀胱前立腺尿道全摘出および尿管転植手術)を行いました。
術後経過は良好で、膀胱腫瘍は移行上皮癌と言われる悪性腫瘍でしたが完全に取りきれているとのことでした。現在術後1年以上経ちますが経過良好で過ごしています。
3. 鼻腔内腫瘍
鼻腔内腫瘍は進行すると眼や脳に浸潤し顔の変形がある場合もあり、また、鼻腔腫瘍の多くは悪性腫瘍で比較的進行が速いため、早めの診断や治療が必要となります。
鼻腔内腫瘍の治療は放射線治療が第1選択とされていますが、九州では残念ながら放射線治療の実施施設がほとんどないことから外科手術を実施することがありますが、浸潤が重度でなければ手術も比較的効果の高い方法の一つで、その時の状況にあった治療の選択が重要となります。
症例①:10歳 Mダックスフント 雄
1ヶ月前からの慢性的な鼻出血と呼吸がしにくいとの主訴で来院、CT検査で右鼻腔内に腫瘍を認めました。
鼻腔内腫瘍は放射線治療も効果がありますが、実施施設が県外となるため地理的に放射線治療が困難であったため、外科手術を実施しました。
手術では鼻骨を切開し鼻腔内腫瘍を摘出しました。手術後3日目から鼻出血も収まり、呼吸も楽になりました。
病理検査で鼻腺癌(悪性)との診断でしたが、術後化学療法を実施し現在、術後1年以上経過していますが再発や転移もありません。
4. 肺腫瘍
犬の原発性肺腫瘍は転移性肺腫瘍に比べて発生は稀であり、猫の原発性肺腫瘍はさらに稀と言われています。犬猫ともに高齢で発生し、原発性肺腫瘍のほとんどは悪性で最も一般的なのは肺腺癌です。
犬の原発性肺腺癌は多くは孤立性であり、治療の第1選択は外科手術となりますが、進行することで気管や胸壁に癒着することもあるため、早期の診断や治療が重要となります。
症例①:11歳 トイプードル 雄
2週間前からの咳を主訴に来院、レントゲン、CT検査で右肺前葉に腫瘍(赤矢印)を認めました。
心臓や気管を圧迫し始めていたため、早期の摘出手術を実施しました。
手術は問題なく終了しました。術後経過は良好で、術後3日目には無事退院となりました。病理組織検査は肺腺癌と診断され、マージンクリアで完全切除でした。術後2年以上経過していますが、再発、転移などなく経過良好です。
5. 口腔内腫瘍
犬猫の口腔内にはしばしば腫瘍が発生し、メラノーマ、扁平上皮癌、線維肉腫などの悪性が多く発生します。
治療には外科手術が第1選択になりますが、発生場所が進行度により手術困難な場合もあるため早期の治療が進められます。
当院では口腔内腫瘍に対して外科手術を積極的に実施しております。
症例①:チワワ 8歳齢 避妊雌
1ヶ月前から左上顎の第1〜2後臼歯にかけて腫瘤を認め、最近、急激に大きくなり当院に来院されました。当病院初診時、腫瘍はすでにかなり大きくなっており、左眼窩の近くおよび頬骨まで浸潤を認めました。
上顎の奥の方の腫瘍は手術が困難な場所ですが、腫瘍切除手術を行いました。
手術摘出後は2日目から食事可能となり、1週間程で退院としました。腫瘍の病理組織検査では扁平上皮癌との診断でしたが、マージンクリーンで取りきれており、現在術後1年以上経ちますが再発もなく経過良好です。。
6. 胃腫瘍
犬、猫の胃腫瘍は悪性と良性があり、嘔吐、胃潰瘍などの症状を示します。診断には初期であれば内視鏡検査が有効で、進行すると超音波検査やCT検査でも発見可能です。胃の腫瘍の基本的な治療は外科手術ですが、一部の腫瘍(リンパ腫)に関しては、主に化学療法(抗がん剤)が実施されます。手術難易度が高いため、術後合併症の多い手術の一つです。また、胃の腫瘍は発見時には、末期の状態である場合のこともあります。当院では手術可能な胃腫瘍に対して早期の外科手術をお勧めしております。
症例①:11歳 シーズー 避妊雌
1ヶ月前から急に痩せてきて、たびたび嘔吐することがあったとのことで来院されました。
腹部超音波検査および上部消化管内視鏡検査にて胃の小湾に腫瘍を認めました。
手術では切除する胃の周囲の血管の処理と食物の流れを意識した胃と十二指腸の再建法が重要です。今回は噴門部温存のビルロード1変法という術式で再建手術を行いました。
病理検査では胃腺癌との診断でしたが、術後は嘔吐もなくなり食欲も改善しました。
術後抗がん治療を行い途中経過良好でしたが、手術して約1年後に再発にて亡くなりました。胃の悪性腫瘍は進行が早く、発見時には手遅れのこともあるため、日頃からの検診が犬や猫にとっても重要だと思われます。