診療案内
‐軟部組織外科‐
軟部組織外科とは、神経外科や整形外科以外のほぼ全ての組織を扱う外科分野です。 当院ではほぼ全ての軟部組織外科が実施可能で難易度の高い軟部組織外科にも対応しており、必要であればCTを用いて綿密な術前計画のもとに手術を実施しています。
主に以下の軟部外科手術を実施しております。
- 呼吸器外科:気管虚脱整復手術、軟口蓋切除手術、喉頭小囊切除手術、動脈管開存症手術、右大動脈弓遺残切除、心膜切除、横隔膜ヘルニア整復手術など
- 消化器外科:胃、消化管吻合術、結腸亜全摘出、胃捻転整復固定術、食道狭窄など
- 泌尿器外科:尿道結石摘出術、会陰尿道瘻形成手術、腎結石摘出、尿管結石摘出(尿管切開術、尿管膀胱新吻合手術、SUBシステム設置術)、膀胱結石摘出、前立腺膿瘍切除手術、腎臓摘出手術など
- 腫瘍外科:口腔内腫瘍切除、乳腺腫瘍切除、皮膚腫瘍切除、胸腔内腫瘍切除、肝臓腫瘍摘出手術、腎臓腫瘍摘出手、膵臓腫瘍摘出手術、膀胱腫瘍切除、尿道腫瘍切除、甲状腺腫瘍切除、断脚術、直腸腫瘍切除、副腎腫瘍切除、胃腫瘍切除など
- 肝胆膵外科:門脈シャント結紮手術、胆嚢切除手術、胆嚢十二指腸吻合術、膵臓部分切除など
- その他の軟部外科:耳道切開、切除術(外側鼓室胞骨切術)、会陰ヘルニア整復術、皮膚移植手術など
特に、軟部組織外科の中で難易度の高い尿管結石摘出手術、会陰ヘルニア整復術、気管虚脱整復手術、動脈管開存症手術を以下に紹介します。また、他院様からのご紹介の多い肝胆膵外科、腫瘍外科は別のページでご紹介します。
1. 尿管結石摘出手術
この手術は左右どちらか、もしくは両方の尿管に結石がつまり症状が発症した時に実施される手術で、猫で多く、尿管が閉塞しているため腎不全を併発しやすく緊急性のある疾患です。手術方法は尿管切開術、尿管膀胱新吻合手術、SUBシステム設置術など様々な方法がありますが、特に猫の尿管は正常でも2-3mm程しかないので難易度の高い手術の一つです。
実際の症例①
6歳 メインクーン 避妊雌
1週間前から食欲低下、血尿があるとのことで来院、検査にて右尿管結石(白矢印)を2つ認めました。飼い主とご相談し、尿管切開による尿管結石摘出手術を実施しました。
術後から血尿、食欲も改善しました。尿管結石は再発することもあるため術後の定期的な検査が必要になりますが、今のところ2年以上経過し再発はありません。
実際の症例②
9歳 雑種猫 去勢雄
1週間前から血液検査で腎不全となり点滴で改善なかったため当院を紹介来院されました。検査で左腎臓の腎盂が拡張していましたが、明らかな尿管結石がなかったため、尿管狭窄による尿管閉塞と判断しました。右側の腎臓は萎縮しており、すでに機能は低下しているものと判断しました。
まずは左側の腎機能が残存しているか調査するために左腎臓に腎瘻チューブを設置し、腎臓の数値が改善するか経過見ましたが、設置後から左側腎臓の腎盂拡張は改善し、腎数値は正常値まで改善したため、左側尿管バイパス設置術を実施しました。
術後も左側腎臓の腎盂拡張は認めず、腎数値は正常のまま血尿などの合併症もなく経過良好でした。尿管バイパスはこの症例のように明らかな尿管結石のない尿管閉塞に適応される場合が多いですが、人工インプラント材となるため術後に血尿が出たりなどの合併症も報告されており、使用した場合は術後経過を定期的に観察する必要があります。
2. 会陰ヘルニア整復術
疾患の程度のより様々な治療法がありますが、基本的には外科的な整復手術が必要になります。筋肉を縫い集めてヘルニア孔を閉じる方法やポリプロピレンメッシュを使用したヘルニア孔の閉鎖手術方法あり、当院は会陰ヘルニアに対して積極的な手術治療を行っております。
実際の症例
ミニチュアダックス 11歳 未去勢雄
2ヶ月前からの便秘、排便困難を主訴に紹介来院、重度の会陰ヘルニアを認め、検査にて膀胱もヘルニア孔に脱出しているのが確認されました。
かなり重度の状態であったため、ポリプロピレンメッシュを使用したヘルニア孔の閉鎖手術、および膀胱整復(精菅固定手術)、直腸固定手術、去勢手術を同時に実施しました。
術後の経過は良く、自力での排便、排尿も可能となり元気になりました。
当院では症例に合わせ様々な手術方法で会陰ヘルニアを実施していますが、再発率がかなり低く安定した術後成績を示しています。
3. 気管虚脱
空気を通すための気管が何らかの原因で扁平状に歪み酸素が肺へうまく取り込めなくなる病気です。症状は咳や「ガーガー」「グーグー」という苦しそうな呼吸になり、特に激しい運動をした後や興奮状態になったときに出やすいです。症状がひどくなると呼吸困難になり命に関わることもあります。
治療では、症状が軽い場合は、内科治療を受けながら経過観察となるケースがほとんどですが、症状が進行する場合は外科治療を実施します。主に気管外プロテーゼ法(Parallel Loop Line Prosthesesを用いた方法)、もしくは気管内ステント設置術を実施します。
実際の症例
トイプードル 3歳 去勢雄
散歩後から急に呼吸困難となり、近医のレントゲン検査にて重度の頸部気管虚脱(白矢印)が確認され、気管虚脱と診断され当院を紹介受診されました。診察時、呼吸状態は悪く、鎮静剤や酸素吸入の処置をしましたが呼吸状態はあまり改善せず、レントゲン透視検査で呼吸の吸気、呼気状態の両方で重度の頸部気管虚脱を認めたため、気管虚脱整復手術を実施しました。
手術では扁平化した頸部気管を認めたため、Parallel Loop Line Prosthesesを用いた気管外プロテーゼを設置し、気管を外側から糸で牽引、縫合し、気管を拡張させました。
術後のレントゲンで頸部気管がしっかりと拡張しているのが確認され(赤矢印)、呼吸も術後から安定しました。この方法は犬の気管虚脱の手術で非常に良い成績を収めていますが、術後経過は注意してみる必要があります。現在は術後2年以上経過しますが、再発もなく経過良好です。
4. 動脈管開存症
しかし出生後は不要となるため、通常は生後2~3日で完全に閉じますが、これが閉鎖せずに残っている状態が動脈管開存症と言います。この動脈管が残ってしますと全身に回るべき血液の一部が動脈管を通じて大動脈から肺動脈に抜けていき、肺動脈や左心側に余分な負担がかかり、時間とともに重症化し、心不全に進行します。さらに進行すると、顕著に増加した血圧によって肺血管が肥厚し、右側の心臓にも負荷がかかり肺高血圧症へ進行し危険な状態となります。
初期は無症状のことが多いですが、聴診で明らかな心雑音が聴取されるため、子犬の段階で心雑音が聞こえた場合はこの病気の可能性があります。重症化すると、咳がでてきたり呼吸が苦しくなったりするため早期の外科手術が必要となります。
実際の症例
マルチーズ 3ヶ月齢 雄
近医にワクチン接種で来院した際に心雑音を指摘され精査のため当院を紹介来院されました。心臓エコー検査にて大動脈から肺動脈へ連続性に逆流する異常血流を認め、動脈管開存症と診断しました。
手術では動脈管を視認し、二箇所結紮し手術終了としました。
術後から心雑音は消失し、術後3日目には退院となりました。動脈管開存症は早期に手術することで完治する犬が多くいるため合併症が出る前に手術することが重要と考えられます。現在、このわんちゃんは2歳まで成長しましたが心臓も問題なく元気に過ごしています。