診療案内
‐関節外科手術‐
当院では犬猫の関節の脱臼や関節炎を引き起こす様々な関節疾患に対して、手術が必要な場合は、積極的に手術を実施しており、他の病院様からも多数のご紹介を頂いております。 主に以下の関節疾患が犬猫では発生します。
- 前肢:肩関節脱臼、肘関節脱臼、手根関節脱臼
- 後肢:股関節脱臼、膝蓋骨脱臼、足根関節脱臼
- 靭帯損傷:前十字靭帯断裂症、側副靭帯断裂(肘、膝、足根)
その中で、特に手術する機会の多い、膝蓋骨内方脱臼、前十字靭帯断裂、股関節脱臼、肩関節脱臼に関して詳しく説明します。
1. 膝蓋骨内方脱臼
膝蓋骨内方脱臼の根本的治療法は外科的整復手術で、グレード2以上で跛行などの症状を認める症例に対して手術をおすすめしています。手術では、滑車形成術、脛骨粗面転位術、内側広筋リリース、外側関節包縫縮、重度の場合には大腿骨および脛骨の矯正骨切術も併用して治療します。膝蓋骨脱臼に対する外科的治療の予後は一般的に良好で、これらの患者の成功率は95%以上と報告されています。犬の大きさは予後に影響せず、大型犬種においても適切な治療、術後管理にて良好な成績が報告されています。
実際の手術症例:膝蓋骨内方脱臼G3
2歳、トイプードル、雄、1ヶ月前からの左後足の挙上を主訴に来院されました。レントゲン検査にて左後肢の膝蓋骨内方脱臼を認めたため手術を実施しました。
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滑車形成術
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脛骨粗面転植術
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外側関節包縫縮術
術後経過は良好で、術後2日目から歩行可能となり、術後14日目にはほぼ正常な歩行となりました。膝蓋骨内方脱臼を放置することで前十字靭帯断裂を併発し関節炎が悪化するケースが多いため、症状がある場合は早めに治療されることをお勧めします。
2. 前十字靭帯断裂症
跛行を主訴に動物病院に来院する犬の30%以上がこの前十字靭帯断裂と言われております。若い時期にボール投げやフリスビーをしていて切れる事も稀にありますが、年齢を重ねると前十字靭帯自体が変性し、切れやすくなります。こういった慢性断裂(Cranial cruciate disease)には、遺伝的要因や免疫学的要因、形態学的要因、生体力学的要因などがあるとされています。
治療
TPLO法は以前よく実施されていた関節外法に比べ術後の回復が良好で、術後の骨関節炎の進行も低く、TPLO法を実施した90%以上に症状の改善を認めるため現在では前十字靭帯断裂に対する手術の第1選択法と言われています。TPLO法の原理は、脛骨の角度を調節することにより膝関節にかかる筋肉の力を変化させて前十字靭帯断裂により引き起こされる脛骨の前方変位を中和し、関節の動的な安定をもたらす手術方法です。
実際の症例①
7歳 ゴールデンレトリバー 去勢オス 26kg
2週間前から急に左後足を挙上、跛行するとのこと近医を受診。
触診、レントゲン検査にて前十字靭帯断裂症と診断しました。飼い主様とご相談し、脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO法)にて手術を実施しました。
手術で断裂した前十字靭帯を確認し、専用ソーで脛骨近位内側の骨切りを行い、TPLO専用プレートで骨を固定し手術終了としました。
術後のレントゲンで脛骨高平部が水平に矯正されており、大腿骨が脛骨の上にしっかり負重できるようになりました。
術後経過は良く、手術して3日目には手術した左後肢の歩行が可能となりました。
実際の症例②
トイプードル 10歳 去勢雄
3日に散歩から帰ってから左後肢が跛行し、治らないとのことで来院、触診、レントゲン検査にて前十字靭帯断裂と診断されました。2週間の安静と消炎鎮痛剤にて治療しましたが跛行の改善があまり見られなかったため、手術を実施しました。
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手術前のレントゲン検査
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手術中の写真
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手術中の写真
術後のレントゲン検査です。脛骨高平部がほぼ水平に矯正されており、大腿骨が脛骨の上にしっかり負重できています。術後経過は良く、手術して5日目には手術した左後肢の歩行が可能となりました。 この手術した後は、1ヶ月ほどは基本的には安静が必要ですが、ゆっくり歩くことは可能です。術後1ヶ月ほどでしっかり着地できるようになり、術後3ヶ月ほどで骨切りした骨がほぼ癒合します。
3. 肩関節脱臼
肩関節脱臼は外傷により関節を安定化する靭帯や腱が損傷されて起こるタイプと、先天的に肩関節が不安定な犬(トイプードル)などに発症しやすく、跛行や頭痛などの症状を呈します。
治療には患者の年齢やサイズ、脱臼の方向、発症原因から治療方法が検討され、肩関節脱臼を繰り返し起こす犬では手術が選択されます。当院では手術が必要になった犬には人工靭帯およびアンカーを用いた靭帯再建術もしくは肩関節固定手術のどちらかを実施しています。一時的な軽度な脱臼を除き、ほとんどの患者では外科手術が必要です
実際の症例①
アンカーを用いた靭帯再建術
トイプードル 2歳 雄
激しい運動の後から左前肢を挙上、レントゲン検査で肩関節の内方脱臼を確認しました。まずは非観血的に肩関節を整復しましたが、翌日には再度、脱臼し痛みを示していたため、整復手術を実施しました。
手術では人工靭帯およびアンカーを用いた靭帯再建手術を実施しました。
手術前レントゲンでは脱臼した肩関節(矢印)が確認されますが、術後のレントゲン写真では肩関節が元の位置に整復されました。
実際の症例②
パピヨン 10歳 避妊雌
以前から何度も右肩関節の脱臼を繰り返しなんとか歩行できていたが、最近痛みがひどく右前肢が着かないため手術希望で当院を来院されました。
右前肢は長時間の跛行の影響で肩関節周囲の筋肉が萎縮しており、通常の靭帯再建手術では再度、脱臼する可能性があったため、肩関節固定手術を実施しました。
手術前と手術後のレントゲンです。肩関節をプレートで固定してますが、術後3日目には歩行可能となりました。通常、この手術しても歩行に問題はなく、通常通りの生活が送れます。
4. 股関節脱臼
股関節脱臼は、外傷(落下、転倒)などにより、股関節(寛骨臼と大腿骨頭)が外れることを言います。また、股関節形成不全(関節のハマりが生まれつき浅い)やクッシング症候群などの基礎疾患がある場合、通常生活で突然脱臼する事があります。
治療では非観血的整復に股関節を戻す方法と、手術などの観血的整復があり、一般的にまず非観血的整復を実施し包帯で固定しますが、何度も再脱臼する場合に手術を検討します。当院では、主に人工靭帯を用いた再建手術(トグルピン法)と股関節が過度に外旋しないように糸で制御する股関節制動法などを組み合わせて手術を実施します。
実際の症例
ポメラニアン 3歳 去勢雄
昨日、高い所から落下し右後肢を全く着かないとのことで来院されました。
レントゲンで右股関節の脱臼(赤矢印)を認めました。
まず、非観血的整復を実施し包帯で固定しましたが、家で包帯を自分で外してしまい、再脱臼したため手術を実施しました。
人工靭帯を用いた再建手術(トグルピン法)を実施しました。
右側股関節が正常な位置に戻っているのがレントゲンで確認されました。
これらの疾患は出来るだけ早期に治療した方が術後の経過は良いことが多いため、これらの病気でお困りの飼い主様は遠慮なくご連絡、ご相談下さい。