診療案内
‐肝胆膵外科‐
肝胆膵外科とは 肝胆膵外科は肝臓、胆嚢、胆管、膵臓、脾臓などの疾患に関する外科を行う診療科です。この領域は専門性が高く、高度な手術手技が必要な場合が多々あります。当院はこの分野において手術を含めた積極的な治療を実施しております。主に以下の治療が実施可能です。
肝胆膵外科:肝臓腫瘍摘出手術、門脈体循環シャント手術、胆嚢切除(胆嚢粘液嚢腫、胆石症)、胆嚢十二指腸吻合手術、十二指腸乳頭拡大切開術、膵臓腫瘍切除手術、膵膿瘍切除、膵嚢胞切除切除、脾臓腫瘍切除手術など
以下に特に他院様からのご紹介が多い、肝臓腫瘍、門脈体循環シャント、胆嚢粘液嚢腫、膵臓腫瘍の手術症例を記載致します。
1. 肝臓腫瘍
犬、猫でも肝臓に腫瘍が発生することがしばしばあります。肝臓腫瘍にも良性から悪性まで様々なタイプの腫瘍が発生し、治療の第1選択は外科手術となりますは、一般的に手術する際の扱いが難しく、特に腫瘍の発生場所や大きさによっては摘出不可能と言われる場合があります。当院ではこれまで数多くの肝臓腫瘍の手術を実施しほぼ全ての肝臓腫瘍の摘出が可能となりました。
実際の症例①
9歳 トイプードル 雄
肝臓腫瘍の精査、治療目的で他院様からご紹介来院されました。
CT検査で肝臓内側右葉から尾状葉尾状突起の肝門部に43×32×30mmの腫瘍が認められ、一部、後大静脈に入り込むように腫瘍の増殖を認めました。
飼い主様とご相談し、手術を実施しました。手術では、腫瘍が後大静脈に一部癒着していましたが肝臓内側右葉から尾状葉尾状突起の全ての腫瘍を切除しました。
術後経過は良好で、術後5日目に無事退院となりました。病理組織検査は肝細胞癌でしたが術後化学療法は実施せず、現在術後1年以上経過していますが、転移や再発もなく順調です。
実際の症例②
13歳 Mix犬 雄
1週間前からの元気食欲の低下を主訴に来院されました。CT検査で肝臓尾状葉尾状突起から発生する52×42×39mmの腫瘍を認め、門脈や後大静脈を圧迫していました。
出血リスクの高い場所ではありましたが、飼い主様とご相談し、外科手術を実施しました。
手術は無事終了し、術後経過は良好で、術後4日目に無事退院となりました。病理組織検査は肝細胞癌で、術後化学療法は実施せず、現在術後1年半以上経過していますが、転移や再発もなく順調です。
2. 門脈体循環シャント
門脈体循環シャントでは、本来肝臓に入るべき胃腸からの血液が、「シャント」と呼ばれる異常な血管を経由して後大静脈に流入するため、解毒を受けないまま全身を巡ってしまい、食欲不振、下痢、嘔吐、ふらつき、昏迷などの様々な症状を呈します。また、肝臓が栄養失調に陥って小さく萎縮するため、肝不全になることがあります。診断には一般的に血液検査(アンモニア、総胆汁酸の高値)とCT検査(門脈シャント血管の位置確定)を用いて診断します。治療は通常外科手術が第1選択で、門脈シャント血管を結紮する方法が一般的です。しかし、治療が遅れることで肝不全を併発し、シャント血管が数本になるマルチプルシャントになると治療が難しくなります。そのため、この疾患が疑われる場合には早期の診断、治療が重要となります。
実際の症例①
1歳 チワワ 雄
2週間前からのふらつきと、食欲の低下を主訴に来院されました。血液検査でアンモニアと総胆汁酸の高値、CT検査で肝外門脈シャント(左胃静脈-後大静脈シャント:赤矢印)を認めました。
ふらつきと食欲の低下の原因は門脈シャントによる高アンモニア血症によるものと診断し、門脈シャント結紮手術を実施しました。
術後に一過性の発作がありましたが、術後5日目には無事に退院しました。この症例では完全結紮時に門脈高血圧が発生したため、1回目の手術では部分結紮を実施し、術後3ヶ月後に2回目の手術にて完全結紮を行うことができました。現在は術後2年以上経過していますが、高アンモニア血症の再発もなく、経過良好です。
実際の症例②
2歳 シーズー 避妊雌
1ヶ月前からの嘔吐を主訴に近医を受診、血液検査でアンモニアと総胆汁酸の高値を指摘され、当院へ紹介来院、CT検査で肝外門脈シャント(左胃静脈-横隔静脈シャント:赤矢印)を認めました。
このタイプのシャントは症状が出にくいことが多いですが、年齢とともに肝障害が悪化することもあるため、門脈シャント結紮手術を実施しました。
この症例では1回の手術で完全結紮ができ、術後は発作もなく経過良好でした。門脈シャントはシャント血管の形態や発生部位により手術が難しい場合があり、この病気に対する経験や知識が必要となります。当院ではこれまで様々なタイプの門脈シャントの手術を実施しているため、お困りの方は遠慮なくご相談下さい。
3. 胆嚢粘液嚢腫
胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内の粘稠性が増加し可動性のないゼリー状の凝集塊が形成される疾患であり、総胆管閉塞や胆嚢破裂などを引き起こします。嘔吐や食欲不振、黄疸などを認めますが、無症状の場合も多々あります。胆嚢粘液嚢腫の治療の第1選択は外科手術で、内科治療を行う場合もありますがそれでも悪化する場合が多いため、診断がついた場合には早期の胆嚢摘出術が推奨されます。一般的には、総胆管閉塞や胆嚢破裂を合併している場合の術後の周術期死亡率は高くなる傾向ですが、そのような合併症がなければ手術後の予後は良好と言われています。
実際の症例①
8歳 トイプードル 避妊雌
食欲の低下、肝酵素の顕著な上昇を主訴に来院されました。超音波検査で重度の胆嚢粘液嚢腫を認め、胆嚢の一部が破裂していました。
このままでは命に関わる状況でしたので、胆嚢摘出手術を実施しました。胆嚢は横隔膜や大網と重度に癒着していましたが、問題なく手術で摘出できました。
術後経過は良好で、手術して3日目から食欲も改善し、術後6日目に無事退院となりました。胆嚢の病気は重度になるまで症状を示さない場合が多く、胆嚢破裂を引き起こした場合は最悪、死亡することのある危険な病気です。高齢になるとこの病気を持っているわんちゃんが多いので注意が必要です。
実際の症例②
10歳 Mダックスフント 去勢雄
近医での検診で肝酵素の顕著な上昇とエコーで胆嚢粘液嚢腫を見つけ治療のため当院を紹介来院されました。当院の超音波検査でも胆嚢粘液嚢腫を認めました。
この症例ではまだ、胆嚢破裂や総胆管閉塞などの合併症を引き起こしたことがなかったため、腹腔鏡下での胆嚢摘出手術を実施しました。
手術は順調に終わり、術後2日目には無事退院となりました。腹腔鏡下胆嚢摘出手術は技術的の難しい手術の一つですが、術後の回復が開腹手術よりも圧倒的に早いので、早期の退院が望めます。健康診断などで見つかることも多いため定期的な検診が重要と思われます。
4. 膵臓腫瘍
膵臓腫瘍は発生率自体が極めて低い腫瘍ですが、インスリノーマや腺癌など、悪性腫瘍が主に発生することが多く、リンパ節や肝臓にすでに転移している場合もあり、進行が早いのが特徴的です。そのため早期に治療が重要となります。診断には血液検査、超音波検査、CT検査を用いますが、腫瘍が小さい場合にはわかりにくい場合もあります。腫瘍が発見された場合には外科的切除(膵臓の部分摘出)が有効となります。腫瘍の再発予防や転移病変の治療には、抗がん剤治療を中心とした内科的治療も行います。
実際の症例
12歳 マルチーズ 雄
持続的な低血糖と発作を主訴に来院し、膵臓腫瘍(インスリノーマ)疑いで当院を紹介来院されました。CT検査で膵右葉に低増強性の腫瘤性病変を認め、膵臓腫瘍と判断しました。治療のため手術を実施したところ、膵臓右葉の腫瘤だけでなく、膵左葉にも小さい結節病変あったため、膵右葉・左葉ともに切除しました。
▽摘出した腫瘍
術後は低血糖も改善し、経過は良好でした。病理検査でインスリノーマと診断されました。術後、半年ほどで肝臓に二箇所ほど転移病変が見つかりそちらも手術で摘出しました。現在、術後8ヶ月経過していますが、再発もなく経過良好です。